そうさ右往沙翁さ

 小山田浩子「斉木君」シリーズの「僕」役を磯崎憲一郎、「斉木君」役を辰巳ヨシヒロの自伝的作品である『劇画漂流』(青林工藝舎)下巻に登場する雨宮という脚本家志望の男性(丸顔丸眼鏡の団子鼻、口髭顎鬚を蓄えた狸面の居候で料理が得意)に振り当てて話を追った。何度目の再読か分からないけれど(理由は不明、フロイトも今は必要ない)発見があるし、前回とは別の箇所で吹き出してしまう。

 エイドリアン・トミネが自著を辰巳ヨシヒロに捧げていて、以前からその関係を不思議に思っていたのだが、前述の『劇画漂流』上巻に、高校生の辰巳がシェイクスピアの四大悲劇、殊に『マクベス』の内容に魅了される場面があって、何となく腑に落ちた。マクベス本人のうじうじした感じや錯乱・狂気の様は二人の描く人物像に通底するように思う。トミネは辰巳との対談で「辰巳さんの作品で一番惹かれたところは、アメリカで手に入る他の日本のまんがと違って、人間性があるというか、深みのあるところです」と語っており(辰巳ヨシヒロ『劇画暮らし』角川文庫 p.392)、これは要するに『リチャード三世』よりも『マクベス』が偉い、と述べているに違いない。

 動画*1のマーキー・ラモーンの毅然とした態度が素敵、と思ったのでラモーンズ(とリチャード・ヘル)を聴き直した。歴史的な名曲の数々と情熱的な演奏の素晴らしさは今更言うまでもないのだが、40年も前の作品に今頃熱くなりおって、と不安に感じなくもない。が、400年以上前の『十二夜』におけるオーシーノ公爵の、昔の歌は素晴らしい(大意)、と豪語するに便乗してその後も構わずラモーン・パンク、ポップ・パンクを追い続け、ついにはこれまで頑なに避けてきたRANCIDに行き着いた。トミネの「SUMMER JOB」*2(『SLEEPWALK AND OTHER STORIES』プレスポップ・ギャラリー 所収)を初めて読んだ際、主人公の着るRANCID Tシャツを不可解に思ったことを思い出す。

 何度目かの発令直前、改札を自宅とは反対方向へ抜け、芝の細かく整備された公園に向かった。月末、それも連休間近の無理がたたって疲労困憊の体ではあったけれど、気持ちはどこか浮ついていた。嬉しいことに球技大会が中止となったのだった。「クソ共が」小声で悪態をつきながら酒とつまみを選り分けて、しかしそれは自らが望んだ服従の証、と(当然ながら)無言で自動精算機と対峙する。「クソが」

 周囲には誰も居ないのに、座って飲むのは気が引けるのだった。腐食した天板の隙間にピーナツを挟み置き、酒と褪せた浅葱色の新書判を持って立ってじわじわと酔いが回る。THE CRABS(K recordsの方)のへっぽこなインスト曲が耳に流れてきて、どうしてサーフ・ミュージックなんだ?、口にピーナツを流し込み、袋を戻すと傾いてするりと抜け落ちた。あわててしゃがむと土くせぇ!(土埃、草いきれ、試合後の解放)あっ分かった!「Surfin'Bird」*3だ。MAD3も辰巳ヨシヒロの短編に触発されて曲を作った*4というし、やっぱりロックンロールなんだなと独り言ちていたら、こんな記事や

blogs.bl.uk

こんな情報(Kathleen Hannaの腹SLUTってもしかして!?)

www.chaw.org

に出会って気が狂いそうになった。

*1:

www.youtube.com

セックス・ピストルズのジョン・ライドン、マーキー・ラモーンとあわや一触即発の事態に | NME Japan

*2:バークレーの学生(Rancid, Samiam, Mr.T Experience等のTシャツ着用)が夏休みに帰省して、アルバイトしながらファンジンを作る話。95年作。そのSCAMという名のファンジン(表紙にはsummer 1992とある)の中にFugaziと“なんとかumpies”という、名前の一部隠れて分からないバンドのライブ評があって、会場はギルマン。物の本(BRIAN EDGE, 924 GILMAN:THE STORY SO FAR… MAXIMUM ROCKNROLL, 2004)によると、92年までのギルマン出演記録に“なんとかumpies”の文字は存在しない。推測するに“なんとかumpies”とは93年以降の記録に現れる“Frumpies”

 The Frumpies - Wikipedia

のことと思われる/思うことにする。となるとイーストベイ好きの青年がわざわざD.C.のストレイト・エッジとオリンピアフェミニスト・パンクを記事にする、というトミネの演出方法を考えないわけにはいかない(別にJawbreakerとSpitboyでも問題は無いはず)。物語の終盤近く、主人公の若者はD.C.のIron Crossのような鉄十字Tシャツを身にまとい退職の意思を表明する。2週間後、今度は黒いジャケットに袖を通し、まるでリア王の長女次女を真似たような狼藉を働いた後、職場を去って行く。これら一連の描写は、イーストベイ・パンクシーンで度々問題化していたパンクスによる暴力、差別、ハラスメント行為(cf.標語)の辛辣な風刺と読めなくもないが、その意図はシーン内部の環境改善が目的で、前述の物語内ファンジンにおけるエリア外部のバンドの導入は、要するにより良い未来を願っての起用、と考えられる、いや、考えられない何だそれは。バンドはRecess recordsの“Grumpies”かもしれないし、リア王のくだりも全然違います、すみません。ただ、鉄十字(黒十字?)デザインはもしかするとインディーの(スケボーの方のINDEPENDENT(インディペンデント) アパレル通販サイト 正規取扱店 : PLUGS)かもしれない。けど92年にスケートしてる奴が細身のダメージ・パンツを履くか?いやスタイルは様々だ。ということはこれはポーザー批判などではなくて、じゃあ一体何なんだ?何でもいいが作風が全然エモくないところがインディー・ロックしてて心地好い。

*3:

The Trashmen - Surfin Bird - Bird is the Word 1963 (RE-MASTERED) (ALT End Video) (OFFICIAL VIDEO) - YouTube

RAMONES - Surfin' Bird - YouTube

*4:

辰巳ヨシヒロ「いとしのモンキー」(『大発見』青林工藝舎 に再録されている)と The Mad 3 - Do The Monkey - YouTubeのこと KING JOE『SOFT, HELL ガレージパンクに恋狂い』ジャングル・ブック 1994年より 同書は音楽情報以外にもダニエル・クロウズやピーター・バッグ等(以外にも多数)のグラフィック・ノベルを紹介している。