暴力大将 沈黙の費用

 がさがさ音がするので、瓶の口を親指で蓋しながら戸を開ける。スポーツジムの営業時間が通常に戻ったとかで、「俺も行く」迷惑そうな後を追ってこんな時、マスクはとても便利だ。

 禁酒期間は終了した。飲酒を再開してからの、当初4日おきの頻度が2日に一遍へ変化するのは早く、やがて軽いお酒なら大丈夫との慢心から連荘が始まり、一日抜いたら体調が全然違うわ、妙な自信を得てさらに勢いづく。毎夜のジンで心臓が苦しくなり、ウイスキーのカルピス割というバカな飲み物で肌が荒れた。

 信号機のボタンに手を伸ばすと「だから押さなくていいって」、気持ちばかりの左右確認の後、駆け出して行く。中央の島に着いた辺りで、反対車線に合流する一台の車が見えた。案の定、ハイビームで照らされてら。なんでいつもそうなの?訊ねると「効率の問題」とのこと。ふん。

 黒ずくめの若者がコーヒー牛乳を二本まとめて鷲掴みする、横で、自分は腕を組み冷蔵庫の中を見つめている。地酒めいた瓶ビールが飲みたいがはたして栓抜きを借りることができるだろうか。ここはコンビニだぞ?

 結局、停めてあった赤の他人の自転車の車輪で外して、世が世なら捕まっている。「さてと」一口含んで見渡せば、猛スピードで車が過ぎて行った、街路樹が花開いた。……桜にしては花びらが大きいし匂いも独特である。調べればハクモクレンのようだ。ところどころ剪定されていて、その切り口が美しい…じゃなくて嫌な世の中だ。お隣りはおそらくヤマザクラ。案外荒々しくできている表面を撫でながら、あんたは特別なのかい?、ところがよく見ればこちらもきちんと管理されている。やはり切り口の木目が可憐で、加工品が法外な値で売られるのも納得だ。

 ♪♪  放射能えらい♪ 誰も差別しない♪ 誰にも負けない♪  ♪♪

 ボタンを押すとすぐさま信号が変わった。車がどんどん溜まる。渡るのは自分ひとりだった。なるほど確かに社会的損失だ。 ー この花壇は**地区に故郷をなんたら会の協力によって整備されています ー はぁ~うるせーうるせー。草花を調べるアプリを操作する。便利な世界に生きている。