私の嫌いな私の世代

 数日前に半値で買った無糖の紅茶が捨て値で売られていた。今度は六本ひとまとめにされて売り場に山を作っている。一口飲んで甘さに驚いて、何を思ったかお湯で薄めるとさらに香り立ち、これで酒を割ったらさぞかし美味かろうと思っていたのだった。歓喜して手に取ったはいいが、飲む気が起きずまた数日が経過する。

 「これさ、何?」しばらく置き放しの物を足先でつついている。ビニール袋が床を斜めに滑る。見たことのないズボンを履いている。「嫌がらせっす」どうしてそんな言葉を吐いたのか。実家で出された田舎の紅茶にほとんど口を付けなかったのが、何故か思い出された。いや、覚えている。

 うん、これはいつもと違う感じだ、紅茶をがぶ飲みした後、一人ベッドの上でぐにゃぐにゃになっていたら、悲鳴のような歌声が漏れ聞こえた。喜び勇んで部屋に入ると、見ていた携帯を伏せる。「懐かしいの聴いてんね」「……」「あ、蒼いジャケのやつからか」表情が曇り出したので退散しようとして、「それ、俺の?」「借りたけど。もう履かないんでしょ?」割にいい色のいい雰囲気・質感であった。

 夜のコンビニへ。小さな公園の二人用ブランコがオレンジ色の網で囲われていた。帰りしな、排除無しの椅子に腰掛けて、さみー。飲み終える頃には足はだらんとなって、背もたれに置いた指先は縁をハイハットしている。 ー ジャングルジムとゾウさん滑り台が黄色と黒のビニールテープでぐるぐる巻きにされて、微笑みの同一人物による四枚横並びポスターが近所に貼られまくっている ー 空き缶をわざと忘れて5m進んで、引き返して拾う。

 甘い香りがして、何かを焼いているようだった。裾の折り方に慈愛の情みたいなのが芽生える。しかし別物に見えるな。「青いやつより良くない?」返事は薄い、が、それは分かり切ったことなので、ひとまず紅茶を運び入れた。そして、残像が甦る。灯りに揺れて見えた鎖と支柱基礎の掘り返された土塊、ポールのてらてらと厚ぼったい塗装のぬめり......あれっ!?前にあったかよブランコ。急にズボンが惜しくなった。

決死の跳躍

 稀に二人が揃って同じ番組を見ることがあった。背筋を真っすぐにして胡坐を組む様を後ろから観察して、相変わらず姿勢が良いなと思った。そのままを口にしてみると、ふふんと笑って胸を反らした。ほっとした自分も実はテレビが気になっている。向かってくる棒を仰向けになって避ける、という競技に男性アイドルと女性俳優が挑んでいる。私は何かを期待して待っているのだ。

 グループの中で一際麗しいメンバーが登場した際、斜めにあった瞳が一瞬輝いたように見えたのは気のせいか。実際自分もその美しい顔に惹かれながら、やはり別のことを考えていた。ー コンビニで品物を受け取る、というのはどうだろう ー 

 或るパンク商品にハキム・ベイのT.A.Z.が紐付けされていて感心した。自分はポルノを探した。その男性アイドルと関係があったと噂されるAV女優の名前を検索バーに打ち込む。支払いの段になり、ついに一線を越えるのかと手が震えた。ややあって、配達先の問題が生じる。そうだよ、どうしよう。

 帰途、人の流れが途切れたところで鼻穴をマスクの外へ出す。呼吸が楽になって魂の解放だ、まあまあ寒かった、梅はまだ咲かぬ、ト、これは初めての経験ではないぞ!?今更気が付き、しばし唖然とする。幼い頃の紙の本に始まって、インターネットでの閲覧は当然のこと、近年では素性を晒してのレンタル利用さえ厭わなかったのに、身に覚えがないとはおそろしや。記憶の改ざん、隠蔽、あるいは無意識による職業差別。己を省みることなく平然と石を投げていた。嘘で固めた人生が崩壊していく、理想のわたくし像(素焼き)が落下して割れる、瓦礫の頂で一歩も動けない、前方のヘッドライトがまぶしく光った、かろうじて体を脇に寄せる。

サムシング・イン・ザ・ウェイ

1.何かが引っかかる

 ケヴィン・スミスグランジ映画『クラークス』の一場面。

www.youtube.com

 SNFU『The Last of the Big Time Suspenders』の裏表紙にもホッケー競技。

www.musik-sammler.de

 スケートはスケートでもアイススケートのスケートロックなのか。

2.体育会系と赤い首の住人たち

  マイケル・アゼラッド『病んだ魂 ニルヴァーナ・ヒストリー』(ロッキング・オン)に「体育会系」の文字がやたらと出てくる。

体育会系の奴らが音楽業界にまではびこっている。(略)ゾッとするよ。

                 カート・ドナルド・コバーン(23歳)

 著者*1は「インテリで、政治的にも進歩派で、反性差別主義で、マッチョではなく音楽のわかる」カレッジ/インディー系の客と「頭の弱そうな体育会系や優等生タイプやメタルキッズ」を対比させながら、その双方から支持を得るバンドの特異な状況を描き出す。

  チャールズ・R・クロス『HEAVIER THAN HEAVEN カート・コバーンバイオグラフィー』(ロッキング・オン)においても、カート・コバーンは運動部出身者や保守的な白人貧困層(自分と同じという意味で言っていると思われる)の思想、容姿についてかなり辛辣な意見を述べている。カート本人は野球、アメフト、陸上やレスリングまでやっている。(割と人気者だったらしい。マット・ルーキン(元メルヴィンズ、マッドハニー)とは少年野球団で出会う)嫌々習わされていたとしても、12才で草と酒を経験して、はたちの頃はビールの代わりにLSDを嗜むような人ではある。

3.オリンポスの果実 

麻生太郎 モントリオールオリンピック クレー射撃 日本代表

森喜朗 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の発言

川淵三郎 日本トップリーグ連携機構会長「オシムって言っちゃったね」

・人気芸能人「切り取り」 

・銀メダリスト「何が正解?批判も肯定も難しい」

4.she's not on the menu

 パートナーの要請した家事仕事一切を無視する強心臓の持ち主、伝説の男カート・コバーン曰く(『病んだ魂』)

女嫌いでもウィリアム・バロウズは尊敬してる。ブリオン・ギーシン(brion gysin)だって完全に女嫌いだけど、彼の作品は大好きさ(略)

僕は女嫌いの連中は大嫌いだし、そういう連中とも関わりたくはないけれど、中には素晴らしい物を作り出す人もいる(略)

彼らからも学ぶべきものがあるんだよ。(略)彼らを拒否して関わらないでいるよりは、彼らの考え方を変えるように説得してみる方がいいだろ?

5.hot topic is the way that we rhyme 

 トビ・ヴェイルの影響で「フェミニズムやその他の政治、社会問題を深く考えるようになった」というカート・コバーン。大好きなカミール・パーリアはコートニー経由で知った。(『病んだ魂』)

男であることを嫌がってはいないよ。女性の側に立って、支援して、他の男性に影響を与えようとする男だっていろいろいる。むしろ女性よりも男性が他の男性に対して例を示した方がインパクトがあるんじゃないかな

 セクシュアル・マイノリティの権利を擁護するコンサートや中絶の権利を支援するチャリティー公演に出演する一方で、妹のカミングアウトに戸惑って意味不明な説得を試みる。橋の下で釣った魚を食う話はどうやら創作のようで、体育会系だかレッドネックだかに部屋を荒らされた話も本当かどうか分からない。晩年は連日のように400ドル相当のヘロインを腕に刺していたそうだが、アージ・オーヴァーキルのEddie “King” Roeserのニルヴァーナ評(『病んだ魂~』p.206)は言い得て妙だ、と思った。

政府なんてクソくらえ、現状なんてクソくらえ、アホ連中もクソくらえ、だろ

 ここから、人種差別、性差別、ファシズム、検閲主義反対に広がっていく。ショウに来た人みんなに伝わるメッセージなんだよ                                                   

 

おわり

 

追記:Steven Jesse Bernstein を聴いて カートもブラウン・カウ/タオル時代はノイズの中で詩を吟じたらしい 存命ならば今頃、スリム・ムーンやディラン・カールソンなんかとポエトリーリーディングのレコードを出していたかもしれない ミランダ・ジュライの線は…どうかな~

 

追記:カートは交際中のコートニー・ラブエミリー・ブロンテ嵐が丘*2オスカー・ワイルド『ドリアングレイの肖像』を贈ったそうだが…。『アラバマ物語』を例にムラの閉鎖性、差別の横行に憤るが、クリスの読んでいたソルジェニーツィンイワン・デニーソヴィチの一日』には興味を示さない。鬱な冬の日にダンテ『神曲』を読んで一日を過ごす(Tシャツのデザインに採用)。ブローティガン(タコマ出身)に言及する箇所はなかった。

 

 飛び跳ねるニッキ・マクルーアとイアン・ディクソン、Tシャツも素晴らしい。www.youtube.com

*1:マイケル・アゼラッドはエヴェレット・トゥルーによると「あたりさわりのない書き手」とのこと(『ニルヴァーナ:ザ・トゥルー・ストーリー』シンコー・ミュージック p.615より

*2:thrushcross grange:スラッシーでクロスオーバーなグランジ・ロックという意味か?(“grunge”)

ゴーゴー!老化作戦。

 目が覚めて、カーテンを開けると窓の外は意外に暖かかった。上機嫌で部屋に入っていくと、ソファから上体を起こして「おはよ」と。「うん。天気も良いし、どっか行く?」誘ってみるも、今日は調子が悪い、すげなく断られすれ違いざま、いやに体臭が濃かった。ちょっと横になる、遠ざかる足音に「飯はどうすんの」訊くと「オートミール食べるからいい!」きっぱり言い放った。

 「作るよ」「いいよ、何か買ってくる」と家を出て、やっぱりいい気持ちだ。穏やかな日差しを浴びて「がんばれがんばれ、いけるいける」心の声が聞こえる。市議会議員のポスターが新しく張り替えられている。いつか最年少で当選した青年も3期目ともなれば次第に貫禄が出るようだ。こちらを見据える精悍な顔付きは、IT長者や半グレを思わせる髪型と相俟って、チョビ髭なんかが良く似合いそうだ。検索すると、タカ派衆議院議員の呟きに憧れと素直な共感を寄せていた。

 2台しかないATMの一つを一人の若者が占拠している。だだっ広い待合スペースの「己」の字の列に加わり、いらいらを募らせる。密だ、とベタに思っていったん外へ出て、八百屋の店先を冷やかしてみる。で、どうして労わってあげなかったのか、あほうのように我に返り、発作的に黒色のりんごを笊ごと買い求め、再び銀行へ。くだんの人、まだ苦戦しているらしい。ようやく振り返った顔を睨みつけると、悪気ない感じの好青年で、それでいて虚ろな目をしていた。

 駅構内を抜けた先で、既に追憶となりつつある政党の市議会議員が演説の準備を始めていた。関係者は他に誰も居ないようだった。魔が差したというか、人智を超えた偉大な力に背中を押されたというか、思わず声をかけてしまう。 ー おぼつかない足取りで坂を降りていった。恥ずかしいやら情けないやら、胸中渦を巻いている。出掛けに感じた至福の境地は今いずこ?ベンチ(排除アート付き)のある公園も鯉の泳ぐ湧水池も子供連れの見物客で立錐の余地無し。近くにある老夫婦の営む定食屋へ駆け込んだ。

 お目当ての新聞は先客に奪われていた。右手で麺を持ち上げ、縦に折った新聞紙に左手を添え、半口を開けてテレビ画面を見つめている。殺意を覚えたが、ないものは仕方ない、気を取り直して『はじめの一歩』を手に取る。あんなにベトついていた表紙が綺麗に磨かれている、読み始めれば感動で涙が止まらない、動揺を鎮めるため、ホッピーを注文し、中を2回お替りして特盛の油そばを食った。酒が廻って日曜版のクロスワードや間違い探しに熱中するうち頬も乾いた。

 帰宅。遅いからもう食べた、何なの、と嘆じる。余った(というか…)食材を片す姿にかける言葉が見つからない。いっそ怒り狂ってくれた方が助かるのだが。深夜、りんごに一縷の望みをかけてみた。あれば食うとのことで、食い意地、と心和む。が、窪みに埃を発見してしまい、嫌な予感がする。「皮剥いたんだ、酸味がきつい、やわ過ぎ」と宣い、一切れで終いにした。「あっそ」憤然と立ち上がり、皿を台所へ持っていった。そのまま流しへぶちまけようかと思うが、とどまって、立ったまま残りを口の中へ放り込む。頬を目一杯膨らませ、眼を三角にして顎を動かす。そういう時に限って舌を噛むようなことはなく、やらかいだけあってすぐに咀嚼を済ませてしまった。

 

蛇足:

 

 就寝直前、ふと気になって例のオールド左翼系市議のtwitterを確認すると、案の定、昼間の事に触れた後、唐突に最低賃金がどうのこうのとほき出した。こいつ、俺のグランジファッションを見てそういう発想に至ったか、と、一人布団の中で怒りに身を震わせた。

 これが前回の記事の発端なり。

 

おちまい

 

cfdl.hatenablog.com

 

カート・コベイン ドナルド・トランプ

 陽気に誘われて、薄着で外に出た。何やかやあって、いろいろ調べるはめになった。検索ワードは「ドレスダウン」、「カジュアルアップ」、「フランネル」、「ランバージャック」。

ネルシャツよ 永遠なれ

 ブルース・パヴィット(サブポップ元社長)、格子柄が良く似合う。

Embed from Getty Images  

社長ブルース 私の履歴書

 自身の経営哲学を語る 映画『Hype!サウンドトラックCD ライナーノーツより

They came to Sub Pop with their first single, and we passed on it for being too commercial. Of course, one year later we almost went bankrupt... Pearl Jam are the social conscience of our arena rock nation.

 以下、エヴェレット・トゥルー『ニルヴァーナ:ザ・トゥルー・ストーリー』(シンコーミュージック)より抜粋

 ジャック・エンディーノ:ブルース・パヴィットを評して(p.82)

彼は反知性をかかげる知性派人間だ。脳みそからっぽの音楽であればそれにこしたことはないというね。

 スティーヴ・フィスク:ブルース・パヴィットのビジネス感覚を問われ(p.86)

サブ・ポップはファクトリー・レコードの真似だ。ブルースは起業家だが、ドナルド・トランプ程の才はない。共産主義者だしね。

 出たな、トランプ前大統領。

クリス・ノヴォセリックの発言

nme-jp.com

rockinon.com

カート・コベイン氏の場合

 以下の記事を参考にした。

faroutmagazine.co.uk

 カミール・パーリア『セックス、アート、アメリカンカルチャー』(河江書房新社)を読み始めたが、読み通せる自信がない。帯には「マドンナ?彼女こそ真のフェミニスト。ポルノ?もちろんO.K.!フーコーラカンデリダなんて、くそくらえ!」とある。フーコーもだめなのか。(それらと戯れて悦に入るだけの大人が嫌いなだけかも)

 ただ、カートの「言い回し」は少し気になった。

I really like Camille Paglia a lot; it's really entertaining, even though I don't necessarily agree with what she says.

真打 マイケル・“カリ”・デウィット Cali Thornhill Dewitt

 再び、『ニルヴァーナ:ザ・トゥルー・ストーリー』より(p.394,504,575,594)

 1973年生まれ。8歳で映画『ザ・デクライン』を見て、9歳でD.O.A.のライブに行き、16歳でJabberjaw (Los Angeles) - Wikipediaに勤務して、パット・スメアを推薦して、フランシスのナニーでコートニー、カートの「二人」と仲良くできて、『イン・ユ―テロ』のCDラベルで女装していた人。現在はアーティストとして活躍していて、東京で個展を開いたりもしているみたい。Cali Thornhill DeWitt - Wikipedia

eyescream.jp

 貴重なインタビュー。カニエやトランプ政権、日本の政治家の話も。

www.gqjapan.jp

 以下、インタビュー*1より、ちょっと引用。

 最近、いっしょに育ってきた奴らのことを考えると、みんな歳をくって、ひとつのことに固執してると思うんだ。「1993年にこんな経験をした。オレはその経験について考えて、そのことを話す」って。オレもだんだん年をくってきて、まわりは「そんな新しいことやってんのか。オレは好きじゃないな」ってなるんだ。新しいことに批判的になる。そもそも新しい言語を学ぼうとしないから。止まってしまうんだ。それが年々積み重なっていく。世界は成長しているのに、ますます関わりを持たなくなってしまうんだ。 

 ......。(  ..........。)

 93年の大晦日オークランドで行われたニルヴァーナのライブにグリーン・デイ、スピットボーイ、J・チャーチ、モンスラのメンバーが大挙して訪れたらしい。それはこの人がエピセンターへ立ち寄った際に皆を招待したから、だそう。その日のオープニング・アクト?はボブキャット・ゴールドスウェイトが務めていて(イン・ユーテロ20周年CDに詳細あり)、後の監督映画『World's Greatest Dad』にはクリス・ノヴォセリックが登場する。めちゃくちゃ感動的な場面で。

ファクト・チェック

ロイターより

www.reuters.com

ニコニコニュースより

news.nicovideo.jp

ポスト・トゥルース・ラウンジ・アクト

 『ネヴァーマインド』収録曲「ラウンジ・アクト」の歌い出し、 “Truth covered in security…” を思い出して、カートよ、おまえもか、と邪推した。(冗談で言ってます)で、クールなカリ・デウィットがいれば大丈夫、みたいなオチにしようと粘ったが不首尾に終わった。検索したら、平気で23万もするネルシャツが数多く出てきた。Mike Wattのせい?それとも世界は自分の知らぬ間にハイパーインフレを起こしていたのか。

 

以上です

 

反省1:BATHTUB IS REALの詳細が気になる キャシー・アッカ―とカミール・パーリアが同い年と知った. 俺のネルシャツ300円

芳兵衛とくになし

 最近は夜の十時を過ぎると辺りはもう、真夜中の気配がする。帰宅して早々、事故か何かあった?と尋ねるので「特には」と答えた。今日は風が強く吹いたという。列車の走る音がいつもより凶暴に聞こえたそうだ。着替えようとして部屋に入れば、床が散らかっていて薄暗闇にモニターが煌々としている。黙っていると「...さん家の木が揺れて怖かったからこっちで仕事してた、ごめん」いや、あっちでも見えないでしょ、自棄になって言い返すと「影が映るから」「影って…」

 酒を飲まなくなった代わりに甘い炭酸飲料を好むようになった。この年でコーラ(キリン商品)が美味しいなんて、得した気分だ。自販機の傍で飲み干して「I like cola!!!」げっぷをしたら涙が滲んだ。本当にしんとしている。しばらくぼんやりしていると、体の内部が急激に冷えてきたので、問題の「木」を確かめるため道をまわる。なるほど仰げば確かに立派な木だ。しかしこんなに太い幹が揺れるのかしら?下からの照明で葉っぱがさらさらと輝いている。冬なのに枯れないのか、そう自問した自分が樹木について何も知らないことを知った。なんも分からん。

 沖縄の基地問題を調べるうちに(主にtwitter検索)、木村紅美『雪子さんの足音』(講談社)に辿り着いた。フィッシュマンズネロリーズ、90年代中頃のモッド&サイケの古着男。どうにか『まっぷたつの先生』(中央公論新社)も手に入れて、yumboのライブ配信に感銘を受けて、佐伯一麦がまた読みたくなった。

 彼方から轟音が届いて、確かにうるせーな、力なく笑った。落ち着いたら仙台へ行ってみようか、実行する気の全くない行動を想像して心が少しだけ温まった。直後、冷たい風が襟元に侵入し、うわっと叫んで小走りで帰る。

津村記久子 レモンヘッズ

■ 過去の過ち GIMME INDIE ROCK !

 島田潤一郎『90年代の若者たち』(岬書店)を読み終えて、チャゲアス動画をひとしきり漁った後、本で触れられていた(pp.59-60)ペイヴメントのライナーノーツを手に取った。『ブライトゥン・ザ・コーナーズ』の該当箇所で微笑んでから『ワーウィー・ゾーウィー』に目を通すと、中でS.M.が「ゲフィンの新人バンド」を揶揄していた。当時、発言を真に受けた自分は愚かにも  jawbreaker『dear you』と aimme mann『i'm with stupid』の購入を見送ってしまった。どちらもペイヴメントよりキャリアがあるのを知らずに。ジョウブレイカーはニルヴァーナ(それこそD.G.C.ですが...)のオープニング・アクトを務める予定だったと知って探し求めたが、それも三枚目までで、『dear you』に関してはjets to brazil 来日の時でさえ食指が動かなかった。エイミーマンは映画『マグノリア』で再認識して、津村記久子『エブリシングフロウズ』(文藝春秋)を読んで、ようやっと聴く気になった。

“I wanted them to be huge but...” 

  ■ インディーキッズ悔い改める BORN AGAINST

 津村記久子、少し前に『群像』2020年11月号所収の短編を読んで、『ディス・イズ・ザ・デイ』以降の作品を読まないでいたことを後悔した。UFJに引いていたのかなあ。

 ■ 君の名は? I forget to forget

 とにかく新刊は絶対買うとして、今は『八道筋カウンシル』(朝日文庫)を再読、斜めに読んでいたら、文中に「ボストンのグランジバンド」とあり(p.128)、珍しく具体名の無いことに胸騒ぎを覚えた。

 分かりませんでした DAMAGED Ⅱ

 boston grunge bands で検索すると無数に出てきた。内容から推し量ろうにも無理だった。いっそでっち上げで以下、pixies, breeders, lemonheads, juliana hatfield, throwing muses, belly より選びたい。dinosaur jr, bufallo tom はアマーストのバンドと見做して意図的に除外した。bullet lavolta とか upsidedown cross とか、挙げだしたらキリが無い。選定は何となく92~94年の間で、「anyone can play guitar」は93年だが、平場でもCDの入手が容易そうなアーティスト、要は国内盤の有無を重視した。グランジの定義については考えない。まずは作者の意見を参考にする。 

 

(略)『君は永遠にそいつらより若い』を分解したのが『ミュージック・ブレス・ユー!!』と『八番筋カウンシル』(後略) 

   著者インタビュー:きらら from BookShop (shosetsu-maru.com)

 

 次に「ボストン」を手掛かりに残りの作品を飛ばし読みすると『ミュージック・ブレス・ユー‼』(角川文庫)はレモンヘッズ(p.108)、『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)には...見つからない!けど、これは多分「LUKA」だ。

 深澤真紀との共著『ダメをみがく“女子”の呪いを解く方法』(集英社文庫)を捧げられている(p.305)方は、以前、ロッキング・オンでレモンヘッズ『カモンフィール』の紹介をしていたような気がするのだが、確認は今後の課題としたい。

 以上、「LUKA」の歌詞内容を元に『君は永遠にそいつらより若い』内の或る場面について当て推量を行ったところ、何の根拠もないけれど『八道筋カウンシル』内における「ボストンのグランジバンド」とはレモンヘッズである可能性が考えられなくもない、と思うのです私は。

 ■ Banned in Osaka !? 

 だから何なんだという結果に終わってしまった。これが無料の弊害か?でも久しぶりに読み返したら楽しかった。暢気にしていたら、以下のインタビューを発見した。

 

 

おわり

 

反省:当初は『ポースケ』(中央公論新社)をアナキズムに関連させて語るつもりだったが、本田圭佑のグレーバー推しに対する反応を見て怯んだ ジョウブレイカーのドキュメンタリーは見ていない ダイナソーではない理由も定かではない